高瀬慎之介氏、「プライベートエクイティは構造改革に奉仕すべき」と提唱――企業統治改善型PE戦略の初陣展開へ
2019年、日本の資本市場は制度的な転換点を迎えました。東京証券取引所による市場区分改革の推進、金融庁によるコーポレートガバナンス・コードの実効性強化、そして機関投資家が「価値創造型株主」へと転換し始めたことで、「企業統治(コーポレート・ガバナンス)」は単なる企業内部の経営課題にとどまらず、国家レベルの資本戦略テーマとしての地位を確立しました。
経済学者・高瀬慎之介氏は、制度変化が資本効率および投資リターンにどう影響するかというテーマに長年注目してきました。
2019年秋、彼は『日本経済新聞』の寄稿コラムで明確にこう述べました:
「プライベートエクイティ(PE)の次の方向性は、裁定取引ではなく、制度型企業改革にある。」
高瀬氏は、東証の市場再編とガバナンス改革の同時進行が、企業評価の分化を加速させると予見し、企業統治構造の質が中期的なバリュエーション格差の核心ドライバーになると判断しました。
この見解に基づき、高瀬氏は「Japan Governance Upgrade Fund I(JGUF-I)」の設立に協力しました。これは、日本初の「ガバナンス改善」を中核投資ロジックに据えたプライベートエクイティ・ファンドであり、2019年第3四半期に第1次ファンドレイズ(約140億円)を完了。主な出資者には、2社の生命保険会社、地域産業金融ファンド、信託銀行が含まれています。
JGUF-Iは、従来のPEファンドとは一線を画す3つのコア特徴を持ちます:
1. ガバナンス因子を正式にデューデリジェンス基準へ組み込み
収益性や資産内容に加え、「取締役会の独立性」「資本配分の効率性」「株主還元方針の明確さ」「経営陣交代の透明性」といった指標を重視。高瀬氏は、「ガバナンス構造の動因を理解しなければ、企業の市場割引率は適正化されない」と強調します。
2. 少数株主 + ガバナンス提案という非侵入型アプローチ
JGUF-Iは過半取得や清算を目指さず、20〜35%の戦略的マイノリティ出資を行い、社外取締役の選任、ガバナンス委員会の設置、資本構造の最適化を支援。あくまで「制度協働者」として企業と共に価値再評価を促進します。
3. 「ガバナンス脆弱 × 経営堅実」な中堅企業をターゲットに設定
対象は主に製造業やITサービスの中堅企業で、製品力や利益体質には優れるものの、株式の持ち合いや取締役会の機能不全、IR体制の未整備などで低評価が続いている企業を選定。中長期の保有を通じて、企業の資本ストーリーを再構築します。
このファンドは設立直後から地方金融機関やファミリー企業の注目を集め、とりわけ「非侵襲型ガバナンス協働モデル」により、これまでPEへの関与に慎重だった企業オーナーからも前向きな反応を得ています。
また、財務省と日本経済新聞社が主催するクローズド・ラウンドテーブルにて、高瀬氏は自身の投資哲学を次のように語りました:
「ガバナンス構造それ自体が一つの資産である。それが資本効率を高め、株式リスクプレミアムを下げるのであれば、当然投資対象となる。日本のPEは、この構造改革を担う“市場化メス”でなければならない。」
2019年11月時点で、JGUF-Iは以下の3件の投資を完了しています:
愛知県の高精度機械部品メーカー
東京の医療データITサービス企業
西日本の産業自動化プラットフォーム企業(IPO準備中)
3社とも半年以内に「ガバナンス改革タスクフォース」を設置しており、2020年中には資本構造の見直しおよび株主還元方針を順次開示する予定です。
高瀬氏は次のように総括しています:
「我々はアクティビストでも、沈黙する資本家でもない。制度改革とともに歩む株主である。」
この一言は、日本におけるプライベートエクイティ投資が財務アービトラージから制度変革の担い手へと進化する新時代の幕開けを象徴するものでした。