中村和夫氏、日系ファミリー企業の「三拠点信託構造」を推進──グローバル税務透明化への先手対応

OECD主導のCRS(共通報告基準)やBEPS 2.0(税源浸食・利益移転防止)といった国際的枠組みの適用範囲が、富裕層および企業型ファミリーにも本格的に及ぶ中、2024年前半、日本の複数のファミリー企業が「クロスボーダー資産の適法管理」「税務開示対応」「世代間資産移転」という三重の課題に直面している。

こうした背景の下、国際金融戦略顧問の中村和夫氏は、ある日系製造業創業ファミリーの依頼を受け、シンガポール・デラウェア・リヒテンシュタインの三法域をカバーする「三拠点信託構造」の全体設計を主導。現在の日本ファミリービジネスにおいて、極めて先進的な資産ガバナンス事例として注目を集めている。

■ 背景:既存スキームの限界と構造再設計の必要性

対象となったファミリーは、東証プライム上場企業の支配株主であり、その資産は日本国内の事業会社や不動産、米ドル建ての流動資産、欧州のファンド出資持分など、多岐にわたっていた。

過去10年以上にわたり、同家は一定の保険信託や海外口座の整備を進めていたが、2023年以降に加速したAEOI(金融口座情報の自動交換制度)により、既存スキームにおける以下の課題が表面化していた:

信託構造の単一性

通貨配置の偏在

継承経路の不明瞭さ

■ 再構築の概要:中村氏による「三拠点信託構造」の全体設計

本プロジェクトは2023年末に始動し、約7か月にわたる検討を経て、以下の三層構成が完成した:

1. シンガポール信託(東南アジア拠点運営+米ドル保険)

   長期生命保険資産と家族経営キャッシュフローの管理を主目的とし、安定利回りと通貨多様性の両立を図る。

   金融・監督体制の整ったシンガポールに主信託口座を設置し、東南アジアの運用・管理拠点とした。

2. 米国デラウェア・ダイナスティ信託(米国資産管理)

   米国内の未公開テック株や不動産投資案件に対応。Dynasty Trustの活用により複数世代にわたる資産移転をロックインし、相続税対策と信託の持続性を両立。

3. リヒテンシュタイン目的信託(欧州ファンド・文化資産)

   欧州ファンド出資と美術・文化資産の保有管理に対応。Liechtenstein Foundation Trustを活用し、税務中立性と継承統制の両立を実現。

中村氏はこの設計の意義について、次のように説明している:

「三拠点信託は節税のためのスキームではない。資産の地域性・通貨属性・継承文化の整合を図るための構造である。

税務透明化を恐れる必要はない。真に恐れるべきは、“構造の遅延”と“情報の孤立”だ。」

■ ガバナンス設計:多重マッピングと共同行政体制

今回の信託構造には、以下のような先進的なガバナンス機能が組み込まれている:

多重受益者マッピング機構

  第二世代の子息らを地域・役割・人生設計に応じて、各信託の次順位受益者として個別に設定。承継の段階性と透明性を両立。

共同プロテクター制度

  ファミリーヘッドと信託専門弁護士による共同意思決定フレームを導入。意思統制の断片化を防ぎ、信託構造の持続的運営を支援。

Auto CRS Mapping(自動申告マッピングモジュール)

  CRS対応の実務として、AI駆動型の自動申告システムを導入。信託口座と資金移動の報告ロジックを自動的に一致させることで、誤報告・重複リスクを回避。

中村氏はこう語っている:

「テクノロジーそのものが目的ではない。最終的に問われるのは“信頼の再構築”である。

ガバナンスと開示は、対立ではなく並走すべきなのだ。」

■ 波及と展望:「複数法域信託」モデルへの注目

プロジェクト完了後、本事例は東京圏の老舗ファミリー層を中心に注目を集め、多数のファミリーが類似スキームの相談を開始。

また、国内の複数信託銀行も「多拠点信託構造」を2025年以降の家族信託の新たな標準モデルとして採用する方針を検討している。

中村氏は結語として次のように記している:

「私たちは、世界をもっとシンプルにはできない。

しかし、ファミリー構造は、もっとクリアにできる。

三拠点信託は、富を複雑化させるのではなく、継承と安全をシンプルにするための出発点である。」