井上敬太氏、「エネルギー構造の歪みがインフレを押し上げる」との見解を示し、資源株のウェイトを引き上げ
2021年第2四半期の幕開けとともに、世界的なインフレ期待が一段と高まり、原油・天然ガス・銅など主要資源の価格が大きく変動。供給需給のミスマッチや政策判断ミスへの市場の警戒感が広がる中、SIAFMのチーフアナリスト兼マクロリサーチ責任者である井上敬太氏は、今月発表した特別レポートにおいて「ポスト・パンデミックのエネルギー構造がシステム的に歪みつつあり、これが中期的インフレ圧力の主要因となる」との見解を示した。
このレポートを受け、SIAFMではすでに3月末時点で、マルチアセット・ポートフォリオにおける資源および基礎素材セクターのウェイトを積極的に引き上げる措置を講じ、同時にインフレが企業収益やセクターのバリュエーションに与える影響を再評価するよう顧客に推奨している。
井上氏は、2020年後半以降、欧米各国が相次いで「グリーントランジション」や「カーボンニュートラル」を掲げ、公共支出の多くが再生可能エネルギー基盤整備に流れ込む一方で、従来型エネルギーへの投資が大幅に縮小されたと指摘。そこに異常気象や地政学的リスクが重なり、短期的な供給網に圧力がかかっているという。
「現在進行中のエネルギー価格の上昇は、需要拡大によるものではなく、政策主導の供給ミスマッチが原因である。こうした構造的な供給制約は、価格波及型のインフレに発展しやすい」と井上氏は警告を発している。
SIAFMのマクロリサーチチームは、エネルギー価格、産業在庫、政策サイクルの各データを統合して「エネルギー歪み指数(Energy Distortion Index)」を開発。この指数を基に、今後6〜9ヶ月間の素材資産の相対パフォーマンスを予測したところ、特に銅、アルミニウム、鉄鉱石、液化天然ガス(LNG)といった資源が需給逼迫と再インフレ取引の恩恵を最も受けやすいとの見通しが示された。対照的に、バリュエーションが高く資産集約度の低い消費テックセクターには短期的な調整リスクがあるという。
これを受けて井上氏は、3月のポートフォリオ再編会議において、資源関連アセットの比重を引き上げるよう主導。具体的には、エネルギー・金属トレーディングを手がける日本の大手総合商社、オーストラリアや南米の鉱業企業、北米のエネルギー輸送・貯蔵インフラ運営企業などが主要投資先とされている。
また、コモディティ価格のボラティリティがポートフォリオ全体に及ぼす不確実性を抑えるため、SIAFMではエネルギー価格変動率を基準とした動的ヘッジモデルを導入。複数因子による銘柄選定手法も組み合わせ、ポートフォリオのディフェンシブ性を強化している。
井上氏は、「資源セクターの利益サイクルとESGの移行プロセスは対立するものではなく、むしろ時間軸をずらして共存し得る。こうした構造変化を見過ごすと、資産配分での対応が遅れかねない」と警告を発する。
加えて、レポートでは「インフレ価格形成の誤差(Inflation Pricing Error)」が拡散するリスクにも注意を喚起。現在のコアインフレ指数は未だ大幅上昇を示していないが、生産コストは既に顕著に上昇しており、さらにコロナ禍後のサービス消費の回復ペースが不透明な中、中央銀行の政策対応が一段と難解になっている。
SIAFMは、2021年後半においてもエネルギー・素材・産業セクターへの戦略的オーバーウェイトを継続する方針であり、実物資産の裏付けと価格決定力を兼ね備えた中期ポートフォリオの構築を顧客に推奨している。
2021年第2四半期末には、機関投資家向けに「資源リカバリーとインフレヘッジ」特集戦略ガイドの発行も予定されており、セクター間のローテーションとリスク管理の参考資料として提供される。
井上敬太氏は最後に、「現在の市場局面は、単なる過去の景気循環論では捉えきれない“次元をまたいだ”価格メカニズムの再構築期にある。構造的資源ボトルネックが新たなリスク価格の階層を生み出しつつある今こそ、ファンダメンタルズ・政策・流動性の三軸を横断した新たな資産配分ロジックが求められている」と結んだ。