中村和夫、野村アセットマネジメントの150億円クロスカレンシー債券プール再構築を支援
2019年夏、世界の債券市場は「静かな転換点」を迎えていた。米連邦準備制度理事会が利上げサイクルの終了を明言し、欧州中央銀行も金融緩和の再開を示唆する中、日本の機関投資家にとっての課題は「利回りをどこで取るか」ではなく、「どこで安全に収益を保てるか」へと移行していた。
このような背景下、国際金融戦略アドバイザーの中村和夫氏は、野村アセットマネジメントと連携し、総額150億円規模の債券プールに対するクロスカレンシー再構成プロジェクトを主導。世界的な金利低下および信用サイクルの収縮という二重の市場圧力に対応する戦略的再編を実現した。
背景:構造的な収益枯渇への対応
再構成前の債券プールは、主に10年物の円建て国債および短期地方債で構成されており、その保守性ゆえにポートフォリオの約70%を占めていた。しかし、2019年初頭以降、日本の長期金利がゼロ近辺あるいはマイナス圏で推移したことで、防御力はあるものの「収益構造の干上がり」が顕在化していた。
加えて、ヨーロッパではマイナス金利の深掘りが進行、米国ではイールドカーブの逆転が確認され、世界の債券市場は「高価格・低安全性」の時代に突入していた。
中村氏は年央の戦略会議で次のように述べた:
「この局面において、低利回りの自国通貨建て資産を持ち続けることは、保守ではなくリスクである。」
彼は、単一通貨で構成された従来型の債券プールでは中期的な資産運用責任を果たせないとし、クロスカレンシー+複数格付け+期間分散を組み合わせた構造戦略こそが、元本保全と利回り確保の両立を図る唯一の道と提言した。
再構成の三本柱:実効性と分散性を両立
再編成の主な施策は以下の3点:
円建て10年国債の一部を、米ドル建て3〜5年物高格付け地方債へ代替
ドル高基調の中、米国地方債は税引き後収益の安定性とスプレッドの柔軟性を兼備。中村氏の評価では、為替ヘッジ込みで約0.9%の純利回り改善が見込まれる。
豪ドル建て政府系変動金利債を追加導入
RBA(豪州準備銀行)の柔軟な金融政策を踏まえ、金利変動に対するクッションとして活用。豪ドルはアジア地域における「分散通貨」としての機能も持つ。
米国インフレ連動債(TIPS)の配分強化
米国の財政赤字拡大および労働市場の逼迫を背景としたインフレ上昇リスクを想定し、価格変動へのヘッジ手段としてTIPSを追加。
戦略運用面の工夫:通貨ヘッジと期間ミスマッチ管理
中村氏は、上記資産の組成・配分だけでなく、為替ヘッジ比率の動的管理、流動性ウィンドウの設計、および期間ミスマッチによるリスク最小化のオペレーション設計にも深く関与。複数通貨を用いた構成下でも、全体としての安定性と予見可能性が保たれるよう制度設計を行った。
野村アセットマネジメントの社内レポートによると、本再構成後、債券プールの予測年率リターンは約1.4%上昇しつつ、最大ドローダウンリスクは±0.5%以内に収まる結果となった。これにより、「低ボラティリティ+微スプレッド拡張」という戦略的バランスが実現され、投資委員会でも高評価を得たという。
中村氏の総括:
「構造とは、技巧のためではなく、本当の波が来たときに資産がきちんと命令に従うための準備だ。」
今回の再構築は、日本の大手機関投資家がグローバル金利環境の収束に対して踏み出した、ひとつの戦略的転換点と位置づけられている。
中村氏は締めくくりにこう述べている:
「このような通貨横断型の構造改革は、今後5〜10年の日本の債券投資において重要な潮流となるでしょう。既に国内利回りの限界が見え、外部への構造的な目配せが共通認識となっている以上、それは不可逆の流れです。」