井上敬太氏、多通貨利差ヘッジ戦略を刷新し、日本の年金資金向けリスク緩和手法を拡張

2022年5月、グローバルにおける金融政策の急速な分化と為替ボラティリティの高まりを受け、SIAFMチーフアナリストの井上敬太氏は、「多通貨利差ヘッジ戦略」フレームワークの再構築を主導しました。本戦略は、日本の年金基金および長期資金に対し、新たな為替・金利リスクの緩和ツールを提供することを目的としており、社内モデルによる初期検証でも有望な成果を示し、SIAFMの年央アセットアロケーション提案の中核モジュールとして位置づけられています。

井上氏は、2021年後半以降、米欧主要中銀が利上げ局面に入る一方で、日本銀行はYCC(イールドカーブ・コントロール)政策を維持したことにより、円が急速に下落し、2022年4月中旬には20年ぶりに130円を突破した点に言及。金利差拡大に伴い、円建て長期投資ポートフォリオは、資産価値の下落、通貨間変動リスクの増大、ヘッジコスト上昇という三重の課題に直面していると分析しました。

「安定したキャッシュフローと購買力の維持が求められる年金運用においては、単一通貨・単一市場への依存はもはや適切ではありません」と井上氏は強調し、「ヘッジツールと構造的戦略の併用によって資金のデュレーションを延長しつつ、ボラティリティを抑制し、かつリターンの絶対水準を維持することが必要です」と語りました。

今回刷新された「多通貨利差ヘッジ戦略」は、2021年版と比較して以下の3つの主要アップグレードが施されています:

① 通貨主導ロジックの動的調整メカニズムの導入
米FRB、ECB、豪州準備銀行の政策路線に対する感応度を変数に取り入れ、通貨ごとのウエイトを季節的な資金フローやヘッジコストと連動させて調整。これによりポートフォリオの耐性を強化。

② アジア新興国ソブリン債を活用した利差商品群の拡充
タイバーツ、インドネシアルピア、シンガポールドルなど、相対的にボラティリティが低く、金利水準の高い通貨に連動する短期ソブリン債をポートフォリオに組み入れ、方向性を持たないヘッジで安定的なキャリー収益を追求。

③ 年金適合モジュールおよび年金商品連携機能の強化
民間年金の「低ボラ・長期運用」ニーズに対応し、遠期為替契約による将来キャッシュフローの固定化を組み込んだ年金サポート型プロダクトを設計。バックテストでは年率リターン4.2〜4.8%、ボラティリティ5%未満を記録。

 

井上氏は、「現在のマクロ環境において、伝統的な債券配分だけでは年金負債に見合う運用は困難。為替リスクは単なるコストではなく、適切な管理によって新たな収益源となり得る」と述べ、「本戦略を通じて、長期機関投資家がより柔軟かつ持続的なクロスサイクル運用を実現できることを目指している」と述べました。

2022年5月時点で、SIAFMはすでに複数の年金運用ポートフォリオにおいて本戦略の試験導入を実施。次四半期には、完全な戦略レポート「多通貨利差ヘッジ:年金資金の構造的リスク緩和パス」を発表予定であり、そこではヘッジパラメータの設計、通貨切替アルゴリズム、現物年金商品との連動モデルなどが詳細に解説される予定です。

最後に井上氏は、「日本の投資界は長らく為替リスクを回避すべきものと見なしてきましたが、インフレと金利変動が常態化する今こそ、為替構造の能動的管理と利差活用が、資産保全と複利成長の鍵となる」と強調しました。