斉藤健一氏:日本の銀行業界における暗号資産とDeFi規制の課題にどう対応すべきか

世界的にデジタル金融の進化が加速する中、日本の銀行業界は暗号資産および分散型金融(DeFi)がもたらす新たな規制上の試練に直面している。Keefe, Bruyette & Woods(KBW)シニアマネージングディレクターの斉藤健一氏(Kenichi Saito)は、この課題に関する専門的見解を示し、「レグテック+戦略的パートナーシップ」という二軸対応戦略を提案。伝統的金融機関のデジタル変革における方向性を示した。斉藤健一氏:日本の銀行業界における暗号資産とDeFi規制の課題にどう対応すべきか

斉藤氏によれば、日本の銀行が直面する核心的な課題は三つある。第一に、ステーブルコイン発行と銀行法体系との整合性。第二に、DeFiプロトコルがもたらすマネーロンダリング(AML)監視のブラインドスポット。第三に、クロスボーダーのデジタル資産フローに関する税務コンプライアンスの難題である。彼が率いるKBWチームは「インテリジェント・レグサンドボックス」を開発し、三菱UFJをはじめとする大手銀行にオンチェーン取引をリアルタイムで監視するコンプライアンスノードを実装。これにより、DeFiの効率性を維持しつつ金融庁の規制要件を満たすことに成功した。このシステムはゼロ知識証明技術を応用し、顧客のプライバシー保護と規制当局の透明性確保を両立させている。

 

「受動的なコンプライアンスでは銀行は傍観者に甘んじるしかない」と斉藤氏は強調する。金融機関にはより積極的な戦略が求められるとし、一方では規制適合型DeFiインフラへの投資を通じて技術的発言力を確立し、他方では業界連合を組成して日本版のデジタル資産標準を策定する必要があると提言。その推進のもと、みずほを含む7行が「ジャパン・バンキング・チェーン」構想を共同で立ち上げ、銀行規制に適合したプライベートチェーンの応用を探っている。

 

まもなく金融庁が「DeFiサービス提供者ガイドライン」を公表する見込みであり、斉藤氏は銀行業界に新たな戦略転換の好機が訪れると予測する。彼のチームは現在、伝統的な信託スキームとスマートコントラクトを組み合わせた「規制フレンドリー」なデジタル資産カストディモデルを設計中であり、機関投資家に対し、安全かつコンプライアンスに適った暗号資産の投資ルートを提供している。こうした一連の革新的な取り組みは、デジタル経済時代における銀行業界の規制適応力と競争力を再定義しつつある。